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模索した編集部





◆ これからの本屋

 書店や本との様々な関わり方を提示するもので、作り手と売り手が共同作業でしっかり手を握っている風景が目に浮かんだ。意味もなく本屋さんへ行ってしまう。そこで何気なく買った本が面白かった、そのときのキュンとする心地。心待ちにしていた本の発売日に、本屋へ向かった時のフレッシュな空気も素晴らしい。キラキラして見える。都内以外の本屋さんでもお取り扱いいただけるよう、日々活動する私たちは、本当人をつなぐ場所を作る人々の意思を信じている。


◆ ある「詩人古本屋伝」|ボン書店の幻

 創刊号参加者者である、翻訳家ダニエルさんが〈役立つと思う〉とくださった2冊。美しい本をつくることに生涯を捧げたふたりの青年たちの姿は、時代を超えて、私たち新米編集部を支えてくれた。


◆ 言葉の宇宙船 わたしたちの本のつくり方

 芹沢高志氏と港千尋氏による本作りプロジェクトを記した一冊。創刊号参加者の黒坂祐さんから〈皆さんにいい本がありますよ〉と紹介された。本というモノがどのような影響を与えるのか、与えてきたのか。様々な気付きが溢れている。編集部は各自一冊持ち歩き、本の中に吸い込まれそうなほど読んだ。線を引き、考えた。私たちにとり、生涯愛し続ける一冊となりました。


◆ その他

出版や著作権、本ができるまでの工程をガイドした本。花森安治による出版物。



園へ大きな影響を与えた
明治屋 "嗜好"





文藝誌園の完成に最も大きな影響を与えたのが、明治屋が明治41年の創刊以来100年間発行し続けた広報誌「嗜好」です。(現在は廃刊となっています)気軽に持ち歩くことのできる、そして片手で開きやすい新書サイズの冊子。約80頁前後の中身は、明治屋が食品会社であることもあり、食品や暮らし・様々な地域や国の文化にまつわる論文やエッセイをはじめとし、とても情景の美しい詩や写真なども掲載されています。寄稿者は、岡本太郎や坂本九などの著名人も多く、資生堂の美容部員から民芸店の店主、ホテルの支配人やコロンビア大学の学生などと幅広い。内容は、その方々によりけりの専門的なものであったり、ただの日記のようなものであったりと、まさに〈嗜好〉という名に頷けるものです。


 初回の打ち合わせから、園の形状は決定していました。上野の喫茶店に集った私たちは、河村が〈参考にどうだろうか〉と出した嗜好に魅了された。それまであちこちとむいていた方向性は、すぐに一本になった。本という手段を選んだ私たちは、誰かの日常に寄り添うような、私たち全員のための読み物、文藝誌を作りたいと思っていました。だから、この嗜好の軽やかさが理想的だったのです。

(写真:編集部で集めた嗜好の一部。デザインも毎度異なり、目で見ても美しい。河村が初回の打ち合わせでもってきてくれたのは、503号だった)



 電車の中で読んでいると、視線を感じる。はは、はいはい。これですね、明治屋が作っていた嗜好っていうものなんですよ。気になりますか?古本屋で埃をかぶっていたし、だいぶ焼けてしまって、ページをめくるたびにすごくにおうんです。それが良くって。今読んでいるのは、お茶の話。昭和37年のことみたいですけど、日本工芸の店主という方が書いているエッセイで、日本で並ぶのリプトンばかりで紅茶党の遺憾とするなんて言っています。それから編集後記が面白くって。山本さんという方が書いているんですけど、アンケートに〈PR誌として落第だゾ〉という声が多いなんて書いています。さて、降車しますね。そう、ポケットに入るんです。昭和37年が、2017年のポケットに。 ……江原



 カバンの小さい日でもポケットに嗜好を入れて、電車に揺られながら、あるいは人を待つ間、ぱらぱらと読むのが好きだった。

 初めて手にした嗜好には〈夏の色〉にまつわる少しロマンチックなエッセイが掲載されていた。文章はどれも気負いなく読み切れるものばかりで、過去から届いた手紙のように思えた。ささやかなのに特別な感じ。またポケットの中にしまい、連れ歩いた。

 縦長の小さな本の中に広がる世界が、私にとってはいつも新しく、押し付けのない誰かの知恵や感情、人の気配みたいなものが程よく漂っているのが心地いい。園もそんな空気を身にまとって、時代を渡ってゆけたらと思う。 ……河村



佐野繁次郎による装幀





 古本屋へ行くと必ず目にとまってしまうその装幀は、洋画家 佐野繁次郎によるものだった。見つけ次第、手に入れることにしている。魅力は何と言っても、佐野さんの書く〈文字〉でしょうね。決して綺麗な字とは言えないけれど、なぜだか安心を感じる。親近感のある、あたたかな印象。既視感と言ってもいいのかもしれません。

 園制作時、佐野さんの装幀を皆に見せるとすぐ気に入ってくれたので、園でも随所に手書き文字を取り入れた。あの「暮らしの手帖」を作り出した花森安治氏も、佐野さんの元で働いてか大きく影響を受けており、手書き文字を応用しています。

 春、私たちは花森さんの元で働いていた小樽雅章氏の講演に足を運んだ。花森さんは〈なかのひとりはわれにして〉を掲げ、社員たちに〈教えてやるというような上からの目線に決してなってはいけない〉と語ったという。その考え方は、私たちにとっても非常に胸に響くもので、まさに目指すところでした。そのような低い目線というスタイルは、花森さんも佐野さんから自然形で学んだのではないでしょうか。

 佐野さんは長く、銀座のタウン誌〈銀座百点〉の装幀も手がけていました。洋画家としてのモダンさと街を任せられるだけの親しみと優しさが、佐野さんにあったからなのかも。園にも、佐野さんの装幀から感じ、学んだものを継承していきたい。 ……江原

(写真:江原が収集している佐野さんの装幀本の一部)



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